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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 が、正直なところ、彩里とめぐり逢ってからというものは、あの狐のことも次第に思い出すことは少なくなっていたのだ。彼は彩里さえいれば良かった。彩里を妻にできたことは、俊秀にとって朝鮮中の美女を手に入れたにも等しい満足感をもたらした。
 狐もやはり、俊秀のことを憶えていて、こうしてわざわざ遠い山を降りて訪ねてきてくれたのだろうか。確かに、山に棲む狐―しかも用心深い獣が都の内まで出てくるというのは奇妙ではあった。
 声をかけようとして、俊秀は咄嗟に言葉を呑み込む。
 もし、愕いた狐が逃げ出してしまったら?
 もう二度と、ここには現れなかったら?
 そう思うと、怖くて声などかけられたものではない。
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