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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 果たして声をかけるべきかどうか思い悩んでいた時、ふっと月が翳った。雲が煌々と輝く蒼月を隠したのだ。
 途端に周囲は闇一色に塗り込められた。闇に閉ざされた視界が再び色を取り戻したその瞬間、彼は先刻以上の衝撃を受けることになる。
 雲が流れ、満月が明るすぎるほどの光を地上に投げかけている。すべてが幻想的な月の光に彩られ、淡く発光したように光の粒を纏っていた。
 月下に前脚を揃えて座っている狐が立ち上がる。月を仰ぎ、ケーンと小さく啼いたその狐の双眸は何と真っ赤に染まっていた。
 月光に煌めく紅い眼(まなこ)は普通なら不吉だとか禍々しいと思うはずなのに、不思議と恐怖はなく、むしろ美しいと思った。
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