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歪んだ鏡が割れる時
第4章 第四章
相変わらずの雑多な街を、多様な人種とすれ違って歩いた。見上げた空はビルに邪魔され、せっかくの秋の晴天も、混濁の中にいる人間達には味わう余裕もないらしい。

何度か人とぶつかりそうになり、ここを颯爽と歩いていた数年前を思い出した。
いったい何人とすれ違っていたんだろう。二度と会う事のない人達と。

待ち合わせ場所か見えてきた。
人待ち顔でそこに立つ人のほとんどが携帯電話を弄ってる。その一番端っこで、空を見上げたまま動かない女性に目がいった。

「……え、茜?」

黒のスカートスーツにパンプス、肩に掛けた黒いバッグ。いつも下ろしていたさらさらの長い黒髪はハーフアップにまとまっていて……。浮くかも、と心配してる本人の不安をよそに、通り過ぎる男どもの視線ときたら、茜の上から下までをいちいちするっと撫でていく。

「やばい……」

俺の知っている心配性で癒し系で、どこか田舎くさかった女の子は、雑沓の中で一人すっくと立っていた。「空だけが友達なの」とでも言いたげに。

な、なにを見とれてるんだ、俺。
たかが茜じゃないか。

空に飽きたのか、携帯電話を取り出したらしい茜がふと、こっちを見た。

「っ……」

じっと目を合わせた次の瞬間、「亮ちゃーん!」わき目も振らず、満面の笑みで駆け寄ってくる。しかも大きく手を振りながら。


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