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歪んだ鏡が割れる時
第4章 第四章
や、やめろよ茜、みんなが見てる。
ほ、ほら見ろあいつなんて、いかにも残念そうな顔をして。
バレるじゃないか、俺がお前の彼氏だって。

ふふふふん。

「よかったぁ、無事に会えて」

目の前で立ち止まり、屈託のない笑顔をくれる茜は、化粧をしているせいかずいぶん大人びてる。

「ひ、久しぶりだなぁ、迷わなかった?」

何だか気恥ずかしい。

「迷わなかったけど、人が多過ぎて息が苦しいよ、あははっ」

まっすぐな視線が俺を洗浄していく。

「あぁ俺も昔はそうだったよ。前の人を踏みそうだった」

「ふふっ、私一番に踏まれちゃうなきっと」

俺を見上げる瞳が輝いてる。

「よく俺に気付いたね」

「だって、背、高いし足長いし、そのスーツ姿、誰よりもかっこいいから」

お、お前はホントに正直な……。

「ん?……な、なんだよ」

人差し指を顎に当て、観察するように、ゆっくりと俺を一周する茜。

「ふーん」

「だからなに?」

「よし、女の匂いはしないな」

「あたりまえだろ」

「えへへ」

ユウは、こんな明るさを俺に見せた事はなかった。あいつは何か、壁を作っていた。立ち入ろうとすると壁ごと後退させて、結局は中が見えない。
ユウにとっても俺は同じだったと思う。だからちょうど良かったんだ。

寂しい時に知り合って、馬鹿な作戦に失敗してきれいに別れる。
さっきすれ違った人達と大した違いはない。


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