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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
バスルームからシャワーの音が聴こえる。機嫌が良い時の彼の鼻歌が、やけに大きく耳に入ってくる。それが私をイラつかせた。

「……」

雅人、あなたのせいよ。
あなたが私の誕生日を忘れるから。あなたが出張を引き受けてしまうから。 私の嘘にも気付かず、心底ほっとした顔をして、鼻歌なんか歌ってるから。

バッグに入れておいた封筒からメモを取り出した。走り書きされた力強い文字を、携帯電話に打ち込もうとして手元が震え、何度もやり直した。

雅人のせいだ、職場の利益安定の為だ。そう、大切なお客様のチケットが、無駄にならずに済むんだから。

私は自分がこれから行おうとしている事の言い訳を、自分以外のものに擦り付けた。

大した事をするわけじゃない。代役を果たすだけだもの。

「はい」

電話の声を初めて聞いた。耳元に響く声に、思わず我に返る。

「……君か?」

「あ、あの、水沢です」

「良かった、待ってたんだ」

「こんな遅くに申し訳ありません」

「うん、今バーで飲んでるんだ。これから出て来られるかな?」

落ち着いた、優しさを含んだ声に、少し安心して自分を取り戻した。

「松岡様、私、結婚してるんです」

わざとおどけてそう言った。

「うむ。……今日のところは引き下がるとしよう」

機嫌が良さそうだ、酔っているのだろうか。

「ところで、どこに迎えに行けばいいかな?」

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