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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
「え?」

「19時開演だから、その前に軽く何か食べたいね」

「あの……」

「17時に君の職場の前でいいかな、ん?」

「あの、なぜ私がご一緒すると思ってらっしゃるんですか?」

断られるとは考えないのだろうか。

「……うむ、君が仕事熱心だからだよ」

「えっ」

「違うのかな、ほかに何か?」

ためらいを捨てさせる言葉だった。

「いえ、私に奥様の代わりが務まるかどうかわかりませんが、喜んでご一緒させて頂きます」

「いやいや、妻の代わりより、私はいつもと違う君が見たいね。楽しみにしてるよ、では金曜日に」

松岡の声が、いつまでも耳に残った。

ほっとさせるかと思えばすぐに落ち着かなくさせる。そんな彼の言葉に、翻弄されていた。

風呂から上がった夫が、隣のベッドで寝息を立て始めた。私はその背中を見つめ、松岡の言葉の意味を探った。

いや、意味などない。 彼なら、あの程度の言葉はたくさんの女性達に囁いてきただろう。

寝返りを打ち、夫に背を向けた。

松岡が購入した数々のジュエリーや、群がる女達が瞼の裏に現れた。

そうだった。
彼女達への贈り物の手助けするのが私の仕事。そう、仕事だ。その為のお付き合い。

私はそう結論付け、膨らみそうな背徳のタネを、闇の中へと放り出した。


















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