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歪んだ鏡が割れる時
第4章 第四章
おしゃべりしながら、茜は、これでもかというぐらいたくさんある案内表示板をくまなく確認してる。

どうやら俺を案内しているつもりらしい。
俺にとっては目をつぶってても行ける場所なんだけど、その必死さがかわいいので黙っておく。

無事に改札を通り、ホームに到着していた車両に近づいた。立ち止まる間もなく発車のベルが鳴り、茜に背中を押されて電車に乗り込んだ。

ドア近くの席に俺を座らせた茜は、「いつでも降りられるからね」と言って隣に座った。

動き出した電車内を平然と眺めた。
ふと、ここで発作が起きたらどうしよう、という不安感に襲われた。途端に、胸の真ん中がぐっ、ぐっと詰まってくる。

やばい、やっばダメだ、またあれがくる。
トトトト……と、鼓動が早くなる。

怖くなって茜の手を握っていた。

「亮ちゃん、ゆっくりと息吐いて、ゆっくりだよ」

動悸が速まってきて、背中を擦る茜の声しか聞こえない。冷や汗をかいて呼吸が浅くなり、苦しさが増していく。それでも俺は胸を押さえ、意識して深い呼吸を繰り返した。

「力抜いてね、すぅー、はぁー、すぅー、はぁー、あ、大丈夫だ。顔色が良くなってきたよ、がんばれしー」

懐かしい言葉。それは本当に、俺を救い出す優しい言葉だった。

少しずつ動悸がおさまっていく。呼吸が楽になっていく。丸まっていた背中を伸ばすと、肩から力が抜けていった。


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