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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「本当?おめでとう、よかったね」
彼の様子から、予想はついていた。
「実力が認められたのね」
「まあね、12月には辞令が出る。でも俺はまだまだこれからだよ」
なぜ彼は、ショートケーキを選んだのだろう。
「張り切ってるのね」
ショートケーキの苺は酸っぱ過ぎて、クリームと合わないよねと、2人して言い合っていたケーキを、なぜ3つも選んだのだろう。
「期待されてるからね。あ、そうだ」
「なあに?」
「12月に社内の親睦会があるんだ。毎年やってて誰でも参加できる」
誰が食べるの?
「そうなの、知らなかった」
私はケーキには手を付けず、コーヒーを口にした。
「それがさ、何年か前に、入社1年目で参加した人が、重役ばっかで緊張し通しだったっていう感想を漏らしてから、平社員で行く人はほとんどいないっていうパーティーなんだ」
「ふふっ、肩がこるのね」
「そうらしい。で、俺、今回参加しようと思うんだ。ほら、顔を繋いでおくって大事だろ、今後の為に」
彼は、お気に入りのチョコのムースを、あんぐりと開けた口に運ぶ。
「そうね、雅人の出世の為にも」
「旨いなこれ……、だろ? だから透子も一緒に参加してほしいんだ」
「え?」
「じつは、妻帯者は夫婦同伴なんだよ……」
私がそういう席は苦手だと知っている雅人は、フォークを皿に置き、いかにもすまなそうな顔で私の同意を待っている。
「……、あのさ私……」
「透子は見栄えがいいから、俺、絶対に一目置かれる。意外と大事なことなんだ。それに、家庭円満のアピールもできる、それが今後に繋がる。……たのむっ、お願いしますっ」
彼の様子から、予想はついていた。
「実力が認められたのね」
「まあね、12月には辞令が出る。でも俺はまだまだこれからだよ」
なぜ彼は、ショートケーキを選んだのだろう。
「張り切ってるのね」
ショートケーキの苺は酸っぱ過ぎて、クリームと合わないよねと、2人して言い合っていたケーキを、なぜ3つも選んだのだろう。
「期待されてるからね。あ、そうだ」
「なあに?」
「12月に社内の親睦会があるんだ。毎年やってて誰でも参加できる」
誰が食べるの?
「そうなの、知らなかった」
私はケーキには手を付けず、コーヒーを口にした。
「それがさ、何年か前に、入社1年目で参加した人が、重役ばっかで緊張し通しだったっていう感想を漏らしてから、平社員で行く人はほとんどいないっていうパーティーなんだ」
「ふふっ、肩がこるのね」
「そうらしい。で、俺、今回参加しようと思うんだ。ほら、顔を繋いでおくって大事だろ、今後の為に」
彼は、お気に入りのチョコのムースを、あんぐりと開けた口に運ぶ。
「そうね、雅人の出世の為にも」
「旨いなこれ……、だろ? だから透子も一緒に参加してほしいんだ」
「え?」
「じつは、妻帯者は夫婦同伴なんだよ……」
私がそういう席は苦手だと知っている雅人は、フォークを皿に置き、いかにもすまなそうな顔で私の同意を待っている。
「……、あのさ私……」
「透子は見栄えがいいから、俺、絶対に一目置かれる。意外と大事なことなんだ。それに、家庭円満のアピールもできる、それが今後に繋がる。……たのむっ、お願いしますっ」