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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「モンブランがよかったのに……」

ひとりでショートケーキを頬張り、冷えたコーヒーを飲み干した。

問いただせば済む事を避けたのは、自分の後ろめたさのせいだ。

夫が選んだ物でない事はあきらかだった。
自分の好みだけを頼み、あとは店員に適当に詰めてもらったのか、それとも誰かに手土産として持たされたのか。それは今夜の食事の相手なのか、その相手は内示をくれた上司なのか、それとも……。

入浴を終えて寝室を覗いた時、夫は既に寝息を立てていた。

ほっとすると同時に、再び疑問が渦巻いた。
疑いだせばきりがない。ほんの些細な事でさえ、こじつければ不審の種に変わる。

あの時もあの時も、そういえばあの夜も……。

私は夫を見ていなかった。そしてまた、夫も私を見ていない。
お互いの事に精一杯で。



「じゃあ、余所行きの顔で挨拶して、あとは隅っこにいてもいいよね」

「やった、ありがとう、よかったー」


夫が私を選んだのは、きっとこういう時の為だったのだ。
私の考えと大して変わらない。それは、自分が生きていくのに丁度良い相手だから。


──結婚しよう透子、俺たちはきっと上手くやっていける


上手くやっていけてた。
別々に……。


あの人に会いたい。
黙って抱き締めてほしい。

温かな腕の中で、安心して眠りたい。
朝まで──。









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