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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「透子、行くよ」

「はぁい」

外廊下に出た雅人が、ドアを開いて私を呼んだ。
今朝早く出張から戻った彼は、疲れた様子もなく、ひと眠りして昼食を作ってくれた。

張り切って家事を手伝い、昼過ぎには、くたびれたYシャツとビジネススーツを、近所のクリーニング店に出しに行った。

「ねぇ、こんな感じで本当に大丈夫かな」

「大丈夫だよ。立食パーティーなんだし、シンプルでいいんじゃないかな」

ダークスーツにグレーのコートを羽織った彼が、パンプスを履き終えた私と向き合った。
身体のラインに添った膝丈のワンピースを選んだ私は、キャメルのコートを腕に掛けていた。

「その服の色いいね、モスグリーンだっけ。……あれ?透子、なんか急に大人っぽくなったっていうか、色っぽくなったような気がする」

「はいはい、お世辞は結構です。きっと、このネックレスとピアスのおかげね」

私は連装のパールネックレスを指差し、夫の言葉をかわそうとした。

「いやお世辞じゃないって」

鍵を掛け、真面目な顔で言う彼に、「そうだわかった、幸せだからよ」と笑顔を向けた。

「ほんと?嬉しいな」

微笑み合い、並んで歩く。手と手が触れ合い、重ねてきた手を、すぐに握り返して夫の肩に頭をつけた。

あの人に狂おしく愛され、悦びに泣き濡れた夕べ。未だ冷めやらぬこの身体を、いさめながら歩いた。



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