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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「まぁ素敵、良いわね、二人でお出掛け?」

顔見知りの主婦とすれ違った。

「はい、ちょっと行ってきます」と答える夫の横で、私は明るく愛想を振り撒いた。

こうしていると私達は、幸せな夫婦そのものだった。





「何人ぐらい集まるの?」

「どうだろう、百人位かな、夫婦同伴の人が多いだろうからね」

「ふーん」

「今回は昇格した人が結構いるみたいだから、きっと賑やかだと思うよ」

吊革に掴まって眺めた窓の外は、冬の夕暮れを迎え、早々と明かりが灯っていた。

「土曜に透子の休みが取れてほっとしたよ」

「えぇ、日頃の頑張りが認められたのよ、ふふっ、本店からフォローに来てくれるらしいの、明日は店長にお礼を言わなきゃ」

「そうだね、とにかく良かった」

夫の昇進を喜んでくれた白石と美波に、美味しいお茶菓子を持って行こう。
忙しいこの時期に、嫌な顔一つ見せずに承諾してくれた二人に、私は心から感謝した。

「なんだかドキドキしてきちゃった」 

「俺も」

「ふふっ」

「はははっ」

雅人の笑い声に清々しさを感じ、私の気持ちも弾んだ。
妻として、彼の力になるのは当然の事だ。それが今の私のやるべき事だ。家族なのだから、夫婦なのだから。

夫婦……、夫婦ってなに?


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