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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
夫は今、明るい未来を見据え、意欲に満ち溢れている。
彼が私の視線に気付き、腕を組んでと、肘でつつく。その腕を取って微笑むと、得意げに切り出した。

「じつは、部屋を取ってあるんだ、パーティーが終わったら、そのままホテルでゆっくり過ごそうと思って」

「え?」

「今までの埋め合わせをしようと思ってさ。ほら、誕生日には何もしてあげられなかっただろ? それに、その、久しぶりに……」

それは当然、夫婦の営みを指して言っているのだろう。

「……ありがとう、嬉しいな。でも、明日は休めないのよ」

「そのまま出社しても平気だろ? 職場で制服に着替えられるんだし」

そう、何も問題ない。替えの下着ならすぐに揃えられる。問題だと感じているのは私だけ。
夫を受け入れられるだろうか。
反射的に拒否してしまったら、いったいどうすればいいだろう。

「そうね、そうするわ」

私の身体は、どう反応するだろう。
昨夜の不貞を隠して、愛欲に興じる事ができるのだろうか。

もしもできたとしたら、それはそれで怖かった。
松岡に抱かれ、次の日には平気で夫を受け入れる。そんな自分と向き合う事が……。

「かわいいな……」

「え?」

「ほら、あの子」

少し離れた席に、靴を脱ぎ、窓に額を押し付けている女の子がいた。
細く編まれた二本の三つ編みがやっと肩に掛かり、赤いボレロの下に、短いスカートから伸びた白いタイツの足が見える。

「ホントだ、3才位かな」

「うん」

子供に目を細めている雅人を初めて見た。







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