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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
「……はい」

困惑しつつ、テーブルに隠れていた両足を彼の方に向けて座り直した。

ホテルの1階、ゆったりとしたラウンジだった。

彼はそこにひざまづき、ワインのラベルを確認するソムリエのように、私の脹ら脛に手を添え、足首を掴んだ。

「っ、あの……」

「じっとして」

彼の膝に、私の足先が乗せられた。

「く、靴が……」

「構わない」

離れた席にいるサラリーマンが、足を組みかえ、しわの入った新聞を折り返している。演奏者のいないピアノの鍵盤が、メロディを奏で始めた。

「っ……」

彼は見覚えのあるジュエリーを手にしていた。それは、白石が女性客に頼まれて、プレスレットをアンクレットに作り直したものだった。

「どうして……」

「プレゼントだよ」

ゴールドの平らな鎖に、等間隔でルビーが嵌め込まれたそれを、彼は私の足首にくるりと巻き、慣れた手つきで留め金を掛けた。

「左足に付けるのは、所有者がいる証らしいね。ぴったりでよかった」

満足気な顔をする彼に、捕らえられたような心細さを感じる。

「こ、困ります」

フロアに流れるラ・カンパネラの旋律が、何かを予感させるように迫ってくる。

触れられた場所が熱をもち、まだそこに、彼の手があるような気がして落ち着かない。


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