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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
駅近くのホテルに到着した私達は、クロークにコートを預け、会場へと足を進めた。
時間に余裕を持って来たつもりだったが、すでに会場入り口には人だかりが見えた。
「ねぇ雅人、あの人たちが入ってからゆっくり入ろうよ。まだ時間あるでしょ?」
「え?……まあいいけど。……やっぱ上司だらけだ、凄いな……」
背筋を伸ばし、ネクタイを気にする雅人は、怖気づいたというよりも、むしろ張り切っていた。
次々に訪れる関係者の中で、直属の上司である千葉部長という人物が、私達に気付いて足をとめた。
「この度の昇進、おめでとうございます。彼の実力が認められて、私も鼻が高いんですよ」
「ありがとうございます。いつも主人がお世話になりまして……」
慣れない挨拶に戸惑ってしまう。
「ははは、中に入りにくいんだろう水沢君。これから毎年参加するといいよ、先に行くよ、妻が待ってるんだ」
「はい、失礼します」
温厚な顔つきをした、気取りのない溌剌とした人だ。
「ねぇ、ずいぶん優しそうな部長さんなのね」
「うん、3年前に他社から引き抜かれてきたんだけど、人望もあるんだ、俺の次の目標」
夫は上司にかわいがられているようだ。私は安心し、誇らしく感じた。
その後も数人の関係者に声を掛けられた。その度に私は、皆に認められている夫を知る。
常に低姿勢な彼の姿は新鮮で、家で見せる顔との違いを感じさせた。
時にはこんな場にも参加してみるべきだと思った。私の知らない雅人の事を、垣間見る事ができる。
夫の努力を評価して貰えるのは、妻としても嬉しい。
「あぁ奥さん、彼、よくやってますよ、けっして早すぎない昇格です。当然だと誰もが認めていますからね。おめでとうございます」
時間に余裕を持って来たつもりだったが、すでに会場入り口には人だかりが見えた。
「ねぇ雅人、あの人たちが入ってからゆっくり入ろうよ。まだ時間あるでしょ?」
「え?……まあいいけど。……やっぱ上司だらけだ、凄いな……」
背筋を伸ばし、ネクタイを気にする雅人は、怖気づいたというよりも、むしろ張り切っていた。
次々に訪れる関係者の中で、直属の上司である千葉部長という人物が、私達に気付いて足をとめた。
「この度の昇進、おめでとうございます。彼の実力が認められて、私も鼻が高いんですよ」
「ありがとうございます。いつも主人がお世話になりまして……」
慣れない挨拶に戸惑ってしまう。
「ははは、中に入りにくいんだろう水沢君。これから毎年参加するといいよ、先に行くよ、妻が待ってるんだ」
「はい、失礼します」
温厚な顔つきをした、気取りのない溌剌とした人だ。
「ねぇ、ずいぶん優しそうな部長さんなのね」
「うん、3年前に他社から引き抜かれてきたんだけど、人望もあるんだ、俺の次の目標」
夫は上司にかわいがられているようだ。私は安心し、誇らしく感じた。
その後も数人の関係者に声を掛けられた。その度に私は、皆に認められている夫を知る。
常に低姿勢な彼の姿は新鮮で、家で見せる顔との違いを感じさせた。
時にはこんな場にも参加してみるべきだと思った。私の知らない雅人の事を、垣間見る事ができる。
夫の努力を評価して貰えるのは、妻としても嬉しい。
「あぁ奥さん、彼、よくやってますよ、けっして早すぎない昇格です。当然だと誰もが認めていますからね。おめでとうございます」