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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「今回はあれよ、専務さんが副社長になったりで人事がだいぶ変わったから、今後が楽しみだって主人が言ってたわ。副社長に期待できるって」

「そうなんですか……」

何もわからない私は、相槌を打つことに徹した。

夫に付いて挨拶に回ったのはほんの少しで、私はすぐに春菜に捉まり、一緒にオードブルをつまんだりした。
お蔭でなんとか場が保たれ、会場の雰囲気に溶け込んでいった。

ここで上司の妻と親交を深めておけば、雅人の将来に、何か良い影響を与えられるかもしれない。
ふとそんな事を考え、夫の目論みが、改めてわかった。

それでいい。
ここにいる誰もが、同じ事を考えるているだろう。至極当たり前の事だ。

周りを見渡す余裕ができた時、先ほどの新人2人に目がいった。
小皿一杯に料理を乗せて、笑い合っている様子が遠くに見える。ほっとしてくすりと笑い、彼らの幸運を祈った。

「少し疲れたわね」と、どちらからともなく壁際に寄り、目立たない場所を見つけて椅子に腰掛けた。

ジュエリーの事に目がないという彼女と静かに盛り上がっていると、前方がざわついて拍手が起きた。

「なんでしょうね」

「きっと役員さんのお出ましよ。ここからの方が良く見えるわ」

「そうですね」

立ち上がった彼女に並び、多少緊張してステージを見つめた。

「おめでとうございます」

「副社長ご昇進、おめでとうございます」

その人物を囲み、人ごみが移動する。

「皆さん落ち着いて、足元に気を付けてください、新副社長、ステージにどうぞ、のち程一言ご挨拶をお願いします。えー皆様、今回はなんと奥様もご一緒です」

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