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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
拍手の中、ステージに上がる副社長に、私達も拍手を送った。
一礼して再び喝采を浴びたその人は、どこかで見た事のある風貌だった。
「……っ!」
「ちょっと怖そうだけど素敵でしょ、あの方が専務さんから昇進した、松岡副社長よ」
そんな……。
「凄いやり手らしいの、松岡副社長なら誰も文句ないって、みんなが喜んで付いて行くって、主人が言ってたわ」
まさか……、こんな偶然が──。
あの人が雅人の上司……。
「嘘……」
思わずふらつき、彼女の肩に当たった。
「え、ねぇ、大丈夫? 酔っちゃった?」
「あ、ご、ごめんなさい。私、ちょっと座っても……」
「座って座って、今お水持ってくるから」
彼女がグラスを持って行ってくれなかったら、私はそれを落として割っていただろう。
落ち着け、誰も知らない事だ。
どうしよう、あの人もきっと驚く。
彼は大丈夫だろうか。
目が合っても、平静を装わなければ、冷静でいなければ……。おかしな素振りを見せてはならない。
大丈夫、出来る。
上手くいく、今までだってそうだった。
震える手足を、強くなる鼓動を、抑え込まなければならない、なんとしても。
私達の為に──。
ショルダーバッグを膝に置き、深呼吸を繰り返した。
なんでもない、大丈夫、大丈夫。
一礼して再び喝采を浴びたその人は、どこかで見た事のある風貌だった。
「……っ!」
「ちょっと怖そうだけど素敵でしょ、あの方が専務さんから昇進した、松岡副社長よ」
そんな……。
「凄いやり手らしいの、松岡副社長なら誰も文句ないって、みんなが喜んで付いて行くって、主人が言ってたわ」
まさか……、こんな偶然が──。
あの人が雅人の上司……。
「嘘……」
思わずふらつき、彼女の肩に当たった。
「え、ねぇ、大丈夫? 酔っちゃった?」
「あ、ご、ごめんなさい。私、ちょっと座っても……」
「座って座って、今お水持ってくるから」
彼女がグラスを持って行ってくれなかったら、私はそれを落として割っていただろう。
落ち着け、誰も知らない事だ。
どうしよう、あの人もきっと驚く。
彼は大丈夫だろうか。
目が合っても、平静を装わなければ、冷静でいなければ……。おかしな素振りを見せてはならない。
大丈夫、出来る。
上手くいく、今までだってそうだった。
震える手足を、強くなる鼓動を、抑え込まなければならない、なんとしても。
私達の為に──。
ショルダーバッグを膝に置き、深呼吸を繰り返した。
なんでもない、大丈夫、大丈夫。