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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「どう?飲める?」

「すみません。ありがとうございます」

グラスを受け取り、少し口に含んだ水を、ゆっくりと喉に落とした。

「お陰様でだいぶ落ち着きました。慣れない場所に来てしまって緊張したみたいで」

「あー、わかるわかる。でもよかったわ落ち着いて」

「ご迷惑をおかけしました」

「ん、あら、水沢さん、副社長へのご挨拶はもうお済みですか?」

雅人が人ごみから離れ、後ずさりして近づいてきた。

「あ、いや……」

「どうかしましたか?」

「はは、圧倒されて」

雅人にしては珍しい事だ。

「わかるわー、ちょっと顔が怖いものね、ふふっ。でもダンディで有名よ。あの声を聞いたらもうメロメロ、あはは。じゃあ水沢さん、私と一緒にごあいさつに行きましょうよ。奥様はもう少しここで、ね?旦那様をお借りします」

「は、はい。私は後で」

胸をなで下ろした。
彼女は私の体調を簡単に説明すると「さあ早く、そろそろ社長や専務達もお出ましよ」と彼の腕を掴んだ。

「あら、震えてる?」

「いえ、あはは、まさか」

夫と並んで対面する事は避けられた。

ざわつきの中、夫の声がマイクに拾われて耳に入ってくる。

何も見たくない、聞きたくない。

私は俯き、水のグラスを両手で握った。

「お、お久しぶりです松岡副社長。ご昇進、おめでとうございます。水沢です」

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