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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「うむ、ありがとう。君も努力が報われたね」
「 ……は、ありがとうございます。こ、これからも社の発展の為に、なお一層の努力を惜しみません」
落ち着いた松岡の声に比べ、雅人の声は緊張のせいで上擦っていた。
「君にも紹介しよう、初めてかな?妻の綾香だ」
「……はじめまして、奥様」
「どうも、よろしくお願いします」
分かっていた筈の妻の存在に胸が痛んだ。張りのある、少し高音の落ち着いた声。
想像もしなかった、けれど当たり前の事が起きている。
私は顔を上げ、ステージに目を向けた。
ふんわりした茶色い髪がスポットライトを浴びて輝き、にこやかに笑って雅人と握手を交わす女性。四十には満たない、若々しくて、育ちが良く、けれどプライドの高そうな人。
そして、それが彼女の魅力になっていた。
私の入り込める場所はなかった。
二人を見つめる松岡は嬉しげに微笑み、何度か頷いた。ふと、奥にいる私に目を向けた。
見つめ合い、そしてすぐ、少し哀しげに眼を伏せた。
「っ……」
彼は驚かなかった。
動揺を隠しているわけでもなかった。
私より先に気付いていたのだろうか。さっき、雅人と一緒にいたところを見たのだろうか。
妻を同伴したことを詫びているのかもしれない。
そして、私の夫が部下であったという事にも──。
私達は、このあまりの偶然に何一つ気付かず、愛欲の日々を重ねていた。
昨夜も、あんなに……。
「 ……は、ありがとうございます。こ、これからも社の発展の為に、なお一層の努力を惜しみません」
落ち着いた松岡の声に比べ、雅人の声は緊張のせいで上擦っていた。
「君にも紹介しよう、初めてかな?妻の綾香だ」
「……はじめまして、奥様」
「どうも、よろしくお願いします」
分かっていた筈の妻の存在に胸が痛んだ。張りのある、少し高音の落ち着いた声。
想像もしなかった、けれど当たり前の事が起きている。
私は顔を上げ、ステージに目を向けた。
ふんわりした茶色い髪がスポットライトを浴びて輝き、にこやかに笑って雅人と握手を交わす女性。四十には満たない、若々しくて、育ちが良く、けれどプライドの高そうな人。
そして、それが彼女の魅力になっていた。
私の入り込める場所はなかった。
二人を見つめる松岡は嬉しげに微笑み、何度か頷いた。ふと、奥にいる私に目を向けた。
見つめ合い、そしてすぐ、少し哀しげに眼を伏せた。
「っ……」
彼は驚かなかった。
動揺を隠しているわけでもなかった。
私より先に気付いていたのだろうか。さっき、雅人と一緒にいたところを見たのだろうか。
妻を同伴したことを詫びているのかもしれない。
そして、私の夫が部下であったという事にも──。
私達は、このあまりの偶然に何一つ気付かず、愛欲の日々を重ねていた。
昨夜も、あんなに……。