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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
新副社長のスピーチが始まり、松岡が言葉を止める度に拍手が起こった。
愛着ある社への貢献を誓い、部下達への期待を語る彼は、皆の信頼を一身に受けていた。

丁度良いタイミングで社長らが姿を見せ、拍手と歓声が一段と大きくなった。

関係者の挨拶が一通り終わり、皆が自由にテーブルの間を行き来しだす。
ボーイがドリンクを手渡しながら巡回し、料理が追加されて湯気が立ち上る。

あちらこちらに小さな人の輪ができ、笑い声が起こる。一人黙々と食べている人もいれば、自分で酒を作り、人に振る舞う者もいる。

そんなに面白い話題あるのかと思う程、皆が楽しそうだった。

私だけが落ち着かない。
落ち着いたふりをしている。
微笑みを、絶やさず。

部下も上司も、その家族も皆親しげにみえる。きっとこれが社風なのだろう。
ただ、松岡妻の傍にいるのは、いつも社長だった。

「ねえ知ってる? 副社長の奥様って、社長の娘なんですって」

「え? そうなんですか」

「そう、詳しいことは知らないけど、社長に押し付けられたんじゃないかしら、松岡専……、あ、副社長、ふふっ」

春菜の想像は、間違いではないかもしれない。
松岡はきっと、長年仕事一筋でやってきた男だったのだ。

彼は、妻を愛していない。
だから彼は、私に愛を注いだ。本当の愛を……。
そうだ、そうに違いない。

「あらー、やっぱり男性陣は気になるみたいね。やっぱきれいだものね、あの奥様。……でも見て、さすがにあなたの旦那様は目もくれないわ、あんな隅っこで談笑してる」

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