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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
膝を隠した箱ひだのスカート、襟なしのブレザーから覗く白い丸襟にはえんじ色のリボンが結ばれ、つやのある長い黒髪は紺色のカチューシャでしっかりと留められている。

花束を持ち、一礼してステージに進む十七、八の少女を、皆が固唾を飲んで見守った。

「悠希……」

松岡の声がした。

「皆様、このお嬢様は、このたびご昇進なさった松岡副社長の一人娘、悠希様です」

驚きの声が上がった。

娘?
あの人の、浩之さんの……。

私は手にしていた小皿を近くのテーブルに置き、ずれ堕ちたショルダーバックを掛けなおした。

娘?

娘……?

知らなくてよかったのに。
知る必要などなかったのに。

胸が痛かった。
彼の妻を見た時よりずっと……。

「まぁ、大きくなったわねぇ」

「綺麗になって、お母さんもきっと喜んでらっしゃるわ」

「あの時以来よね、たしかまだ小学生になったばかりで……」

懐かしげに話す周囲の声はどれも優しく、彼女の成長を喜んでいた。おそらく幼い頃、よく父親の職場に顔を出していたのだろう。

「へー、みんなよく知ってるのね。私、娘さんがいるなんて初めて知ったわ。ね、水沢さん」

春菜が同意を求めた。

「……えぇ」

「色白ですごく綺麗。お化粧も必要ないのね、見るからにお嬢様」

「えぇ、ほんとに」

誰もが彼女に見とれていた。堂々と胸を張り、切れ上がった目で正面を見つめる。
穢れのない、朝露に光る秋桜のようだった。


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