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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「悠希様は、現在、通学事情により、お婆様宅から、私立の女子高に通われています。成績優秀で、来春卒業後は海外留学を決めておられます。今日は、ご家族への感謝と、お祝いの気持ちを伝えに来てくださいました。……よくぞこんな……、こんなに、素敵な女性に、成長なさって……、本当に本当に……」

感極まったのか、口を固く結び、司会者が目頭を押さえた。ぱらぱらと拍手が起こり、さざなみのように広がっていった。
少女は緊張した面持ちで前を見据え、そのふっくらとした唇をきゅっと引締めた。

「す、すみません、失礼しました。ちゃんと司会者になりきらないといけませんね、ハハ。あ、ステージ横にご両親様と宮藤社長もいらっしゃいましたよ。皆さんお待ちのようですので私はこの辺で引っ込みます。久しぶりにこの呼び方で呼びますね、悠ちゃん、がんばって」
 
少女の前にマイクが立てられると、ステージには彼女だけが残された。

水を打ったような静けさの中、私は松岡とその妻を見つめた。

「……」

彼は目を細めているというよりも、娘を心配しているようだった。横にいる妻は、ステージではなく、近くのピアノを眺めている。

「ねえ、姉妹に見えそうな程若く見える母さんだよね」

「そうですね」
目の前に、彼の家族がいる。
これが現実……。いつもついて回る当たり前の事。

彼は今、私の為に、必死に平常心を保とうとしているだろう。

それなら私も、私もここにいる。
そうするしかない、彼の為に……。



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