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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
男女の激しい息づかいが皆を凍りつかせた。
私は今聴こえているものは何なのか、理解しようとした。
いや、理解しないように努めた。

「悠希っ、やめなさい」

松岡がステージに上がり、娘の腕を掴んだ。持っていた花束が落ちて散らばった。
綾香は項垂れ、床にへたり込んでいた。

「副社長、申し訳ありませんっ、申し訳ありません!」

駆け寄ってきた雅人が、額を床に擦りつけている。

「お、お父様は知っていた筈よ、もうずっと前から知っていた筈よ、その写真、見た事あるでしょう? ポストに入っていたでしょう?そうよ、あれは、綾香さんに不倫をやめさせようと思って私がやったの、それも気付いてたでしょう?」

知っていた?
松岡は二人の事を知っていた?

私との関係を深めていったのは、妻の不貞に傷付き、慰めを求めていたからだろうか。
私が、部下の妻だとは思いも寄らず、愛した。

愛し合った──。

掴まれた腕を振りほどき、彼女は尚も父に詰め寄った。

「なのになぜ、知らないふりをしていたの? 世間体?おじ様に気を使ったの? 私は違う、我慢できない」

ステージに落ちたボイスレコーダーが、女の喘ぎ声を呟き続ける。

『あぁ……いい、いいわ雅人、あぁんお願い、私だけを抱いて、あ、あぁ凄い、あぁん、あっあっ……雅人ぉ、凄いのちょうだい、早く、早くきてぇ……』

また、夫の名前が聞こえた。

名前……。

── デートする女性の名前ぐらい、知っておくのは当然だからね

「っ……」

彼は知っていた?

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