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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
私の職場、名前、年齢、誕生日……。
白石が教えたんじゃない。
彼女のような人が私に断りもなく、個人的な事を顧客に漏らすわけがない。

なぜあの時、彼にちゃんと問いたださなかったのだろう。

妻の不倫を突き止め、人事部で夫を調べれば、その妻である私の事など簡単にわかる。

雅人の、部下の出張予定も何もかも、彼なら容易に把握できる。

だからあの日も知っていた、あのコンサートの日、雅人が出張だという事を。

──君でなければ意味がない

私でなければならなかった。
妻を寝取られた男のプライドを満たす為に、松岡は私を見つけ、時間をかけて近づき、私を、寝取った。

嘘……。
違う、彼はそんな人じゃない。

あんなに愛してぐれた。

──君は私のものだ
──君のお蔭で、若さが蘇ってくる

「これ、どこで録音したと思う?……お母様の、お母様が最後の半年間をベッド過ごした、2階のあのお部屋よ。私とお父様と、3人で一緒に過ごしたあのお部屋。……そのままにしててね、ここは絶対開けないでねって、その人と約束したのに……一番最初に約束したのに……き、汚ならしい……汚らしい……」

誰かがドアを出て行っても、だれも気にしなかった。

こんなに大人が揃っていながら、だれも彼女をステージから降ろそうとしなかった。父親以外誰一人、社長も、司会者も彼女を止めようとせず、少女の心の叫びを受け止めていた。

私は混乱し、心にひびが入っていくのを必死で止めようとしていた。

偶然だ。
あの人は、本気で私を愛してくれた。
そうとしか思えない、そうとしか……。
そうでしょう? 浩之さん。

あなたは言った、死ぬまで愛すると……。




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