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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
「悠ちゃん、申し訳なかった。悪かったなぁ、いやな思いをさせて。……綾香、お前を嫁に出すんじゃなかった、早くここから出ていけ!松岡の家に戻るんじゃないぞ、実家に帰ってろ!」

社長の罵声がとんだ。

「パパ……」

「いいか綾香、この私がお前の口添えであの男を昇進させたと思っているのか。馬鹿も休み休み言え!お前は我が家の恥だ、早く出ていけ!だれかこの馬鹿を連れ出してくれっ」

「社長、申し訳ありません、本当に申し訳ありませんっ」

夫の叫び声の中、司会者がそっと綾香の腕を取った。
綾香は立ち上がり、ステージに立つ悠希を睨み付けた。

「あ、あなたなんか、あの部屋に籠ってばかりで、ちっとも可愛くなかったわ。……な、何よその目、人の気持ちも分からないくせに、あなたなんか、恋をした事もない子供の癖に!」

「あるわっ、あるわよ!でも、私はあなたとは違う、違う……」

少女はその時、初めて涙を溢した。

綾香が出て行って後の会場に、再び静寂が訪れた。

何を信じればいい。どこに真実があるのだろう。

雅人の姿を遠くに感じ、思考が停止した。
力が抜け、私は、無意識に掴んだテーブルクロスと共に、床に沈んだ。

大音量が響いた。

「水沢さん!」

春菜が駆け寄り、割れたグラスや花瓶、テーブルクロスを片付けてくれている。

会場の皆が、私に同情の視線を浴びせていた。
夫と同じ罪を犯した馬鹿な女に。


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