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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
俯いていたくても、太陽は顔を出す。
重い身体を引き摺って、冷蔵庫から取り出したスポーツドリンクを喉に流し込んだ。
眠れずに過ごした寝室に雅人はいない。
昨日とは違うこの家の静けさは、住人のいない空き家より、暗く寒々しいかもしれない。
昨日と同じ今日が続いていた。少しの救いも見出だせず、虚しさだけが胸に溜まっていく。
雅人は眠れただろうか。
ホテルの部屋に私を連れて行き、謝罪と土下座を繰り返す彼を、正視できずに逃げ帰った。
「本当に馬鹿な事を、取り返しのつかない事をしてしまった」
そう、あなたも、私も……。
彼の話を聞く余裕なんかなかった。
皆に蔑みの目で見られた夫は、自信を無くし、後悔の念に苛まれている。生々しい性愛の現場を公に晒され、言い訳も許されない。
「聞いてくれ透子、あの人を愛した事は一度もない、俺は、早く終わりにしてしまいたかった……」
それは嘘ではないだろう。
けれどあなたが間違いを起こさなければ、私は、こんな辛さを知らずに済んだ。
ごく平凡な毎日を淡々と過ごせた。
あの人を、松岡を知る事もなく、許されない愛欲に溺れる事も、醜く嫉妬する自分を知る事もなかった。
胸が痛い。押し潰されそうなほど。
あの子の表情、あの唇が私に何を言おうとしたのか、松岡は分かっていて止めたのだ。
──お母様………
重い身体を引き摺って、冷蔵庫から取り出したスポーツドリンクを喉に流し込んだ。
眠れずに過ごした寝室に雅人はいない。
昨日とは違うこの家の静けさは、住人のいない空き家より、暗く寒々しいかもしれない。
昨日と同じ今日が続いていた。少しの救いも見出だせず、虚しさだけが胸に溜まっていく。
雅人は眠れただろうか。
ホテルの部屋に私を連れて行き、謝罪と土下座を繰り返す彼を、正視できずに逃げ帰った。
「本当に馬鹿な事を、取り返しのつかない事をしてしまった」
そう、あなたも、私も……。
彼の話を聞く余裕なんかなかった。
皆に蔑みの目で見られた夫は、自信を無くし、後悔の念に苛まれている。生々しい性愛の現場を公に晒され、言い訳も許されない。
「聞いてくれ透子、あの人を愛した事は一度もない、俺は、早く終わりにしてしまいたかった……」
それは嘘ではないだろう。
けれどあなたが間違いを起こさなければ、私は、こんな辛さを知らずに済んだ。
ごく平凡な毎日を淡々と過ごせた。
あの人を、松岡を知る事もなく、許されない愛欲に溺れる事も、醜く嫉妬する自分を知る事もなかった。
胸が痛い。押し潰されそうなほど。
あの子の表情、あの唇が私に何を言おうとしたのか、松岡は分かっていて止めたのだ。
──お母様………