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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
ファンデーションを塗りつけながら、鏡に映ったこの顔を恨む。
彼が愛したこの顔を……。





バッグの中で携帯電話が震えている。私は昨夜から、一度もそれを開く事なく家を出た。

夫の言葉も、松岡の言葉も、何一つ心に届かないだろう。

──心配ないよ、全て上手くいく

信じて疑わなかった。
上手くいっていた。

彼の誤算は娘。愛する妻の忘れ形見。




「透子さん、昨日のパーティーどうでした?」

昨日のお礼を言い、駅前で買ったお茶菓子を手土産にした私に、美波がわくわくした顔ですり寄ってくる。

「凄かったわよ、あんな豪華なパーティー初めて」

「いいなー。私も一度でいいからそういう所に行ってみたいんですよね。彼氏の会社、そんな事してくれる余裕なんてないし、夫婦同伴で参加できるなんて、余程安定した企業なんですね、しかも会場は超高級ホテル。羨ましぃ~。透子さんの旦那様、出世街道驀進中ですね、いいなー順風満帆ってこういう事ですよね」

罪のない言葉が、ぐさりぐさりと突き刺さる。

「ほら、山崎さん、おしゃべりはやめて、開店10分前ですよ」

「はぁーい」

白石に急かされ、美波が手土産を控室に持って行った。

「水沢さん、大丈夫?」

「え?」

「疲れた顔よ」

過度に心配するわけではなく、厳しさを含んだ問いかけだった。

「あ、すみません。夕べ帰宅が遅くなってしまって」

「そう。体調を整えておきなさい、これからが書き入れ時よ」

「はい、大丈夫です」

白石の凛とした声が、萎えた気持ちを仕事に向かわせる。

毅然とした彼女の姿を糧に、私は今にも切れてしまいそうな心の糸を結び直す。
何度も、何度も……。









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