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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
──元気ですか?
暖かくなってきたね

するとすぐに返信がある。

──こっちはまだ夜が肌寒いよ
桜はもう散ってしまった?

──すっかり葉桜よ
でも新緑がきれい

──体調崩してない?

──元気にしてます
雅人も気をつけて

──俺は平気、ちゃんと自炊してるんだ。一人鍋にはもう飽きたけどね



離婚だけは避けたいという雅人からの強い申し出を、最初は断った。
目の前で項垂れてばかりいる夫を見るのはいやだった。それは同時に、自分の過ちを突きつけられているようで、耐えられなかった。

それでも婚姻を解消しなかったのは、彼と同じ気持ちが私のどこかにあったからだ。

「これからの俺を見ていてほしい。お願いします、少し猶予をください。 それでも無理なら、その時は文句は言わない。どこからこうなってしまったのか考えたい。俺は間違ってた。透子、最初からやり直したいんだ」

彼にも、私にも、冷却期間が必要だった。

私は、自分が犯した罪から逃げ出したかった。
あの男の事など、早く忘れてしまいたかった。

解雇を免れただけでも有難いと胸を撫で下ろした雅人は、何らかの口添えをしてくれたらしい松岡に恩義を感じているようだった。

夫は依願退職し、取引先の紹介で、長野県にある電子機器メーカーに再就職した。

私達夫婦は、1月から離れて暮らし始めた。
2月、3月が過ぎてから、ときどきメールで近況を聞くようになった。

言葉の端々に、一人でいる事を強調し、空元気を出しているように感じる。声を聞けば様子を見に行きたくなるかもしれない。
けれどお互いに、電話を避けていた。

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