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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
それは、何かの弾みで、言ってはいけない事、聞きたくない事を口にしてしまいそうだったからだろう。

いつかは言わなければならない。自分の罪を告白しなければならない。
いや、このまま黙っていた方が彼を傷付けずに済むのではないか。違う、それは自分が可愛いからこその言い訳。
ずっと隠しているのは後ろめたい、ならばその、後ろめたさを背負ったまま生きていくべきだ──。
堂々巡りで時間が過ぎる。

あの少女の姿が忘れられない。
私がとうに失ってしまった、あの清廉さが……。

目にした写真や、彼ら二人の愛欲の呻きが何度も脳裏に蘇る。

彼女が、もし父親と私の関係を知ったらと思うと恐ろしくて身が縮む。

そういうものだ。私達皆がやっていた事は、そういう事なのだ。

自分たち以上に誰かを傷付ける、想像以上に深く。いや、当事者は傷付かない、ただ狼狽えるだけだ。鏡に映った己の醜態に、やっと気付いて……。

松岡との事は、すべて嘘だった。
それが真実。

私は何を信じていたのか。ただ、身体を繋げる事への理由が欲しかっただけだ。身体だけの関係ではないと、自分に言い聞かせて、そこにあるのが愛ならちょうどよかった。

自分を納得させる為に、信じたいものだけを信じた。
身代わりだとも知らず、激しい官能の熱に溺れていたくて……。

同じ、皆同じ罪だ。罪を暴かれ、ぽかんと口を開けている滑稽な私達。

彼女はもう旅立っただろうか、救いようのない馬鹿な大人達を見捨てて──。







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