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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
──突然ですが、明日、そっちに行ってもいい?

いろいろと考えた挙げ句の文面が、これだった。

雅人は今、何をしているのだろう。夕食は済ませただろうか。
すぐに返信がないのは、入浴中なのかもしれない。テレビのせいで着信に気が付かないのかも。
それとも、職場の仲間と飲んでいるとか。それとも他の誰かと……。

握りしめていた携帯電話が短く震えた。

──びっくりして何度も読み返したよ
本当? 来てくれるの?
明日の何時?
俺、仕事抜けて駅まで迎えに行くよ
あの、よかったら今、電話くれないかな

跳び跳ねて見える文字に、切なさが浮かんでは消える。
ふさがっていた蓋が少し開いて、温かな光が胸に差し込んだ。


私は、久しぶりに雅人の電話番号を指で押さえた。

呼び出し音を5回数える。

「透子?」

「……うん」

「……元気?」

「元気よ」

「……俺も、元気」

「そう、良かった」

「うん……」

懐かしかった。
携帯電話が、耳にぴたりと張り付いた。

「急でごめんね」

「い、いや、いいよ。いつでも良いよ」

夫は、緊張しているみたいだった。

「明日の午後12時48分長野着で、夜には帰る予定なんだけど」

「そ、そう。じゃあ、時間間違えたら困るから後でメールしといて、遅れないように迎えに行くから」

「お仕事抜けたりして大丈夫?」

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