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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
「うん、ちょうど昼休みだし、アパートもすぐ近くなんだ。だから透子はアパートでゆっくりしてて。あ、お昼はどうする?」

「駅弁で済ませるわ」

おそらく一緒に食べる時間はないだろう。

「わかった。じゃあ俺、改札出たとこで待ってる」

「お願いします。じゃあ、明日」

「あ、透子」

「なあに?」

沈黙が続いた。

「……ありがとう」

「……うん、じゃあね」

電話を切った後、頬を緩ませている自分に気付いた。デートの約束でもしたかのような気分だった。

あんなに声を弾ませてくれるなら、もっと早く電話を掛けるべきだった。
新しい職場で、色々と詮索されて滅入ってないだろうか。慣れない仕事で疲れ切っているかもしれない。

疲れて帰宅しても一人、私と同じ。




──────────────



東京発長野行き、北陸新幹線“あさま“に乗り込んだ私は、空席が目立つ車輌の窓側に腰掛けた。

一息つくと、考え抜いて、自分で決断した事を実行する為に、携帯電話を取り出した。

このまま引き摺っていたところで、悪い方にしか転ばない。救いはない。
この先、雅人と私がどうなろうと関係ない。不幸を呼ぶだけの繋がりを、立ち切るには今がちょうど良い。

未練などなかった。きっかけが欲しかっただけ。
先に進む為には、これが一番大事な手続きだった。

──松岡様
夫の元に参ります
二度とお会いしません
さようなら

何度か読み返し、嘘のない覚悟を胸に刻む。
送信後、暫くして着信があった。

──承知した
透子、君が幸せならそれでいい



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