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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
言い訳もせず、引き止める訳でもない。彼らしい言葉が声になり、一瞬胸がざわついた。
けれど、それはもう私の胸を熱く惑わせるものではなく、どこか郷愁じみたものを感じさせた。

私は自分が冷静である事を確かめ、松岡からの着信を拒否設定に、そして、彼のアドレスを消した。

──死ぬまで君を愛しぬくよ

燃え盛る炎の中で受け止めた言葉が、灰になっていく。こうして夢から覚めてしまえば、その嘘をせせら笑う事すら出来る。

──かわいい透子、君が愛しいよ

愛欲の日々より、彼の言葉に酔っていたのかもしれない。媚薬のように心に沁み込み、私を操っていたあの声にも……。

幕の内弁当の包みを開けた。一口食べる毎に、心に残った言葉を噛みつぶし、お茶を流し込む。
私は、胸に張り付いていたたくさんの嘘を、一つ一つ削ぎ落としていった。

考えなかった、彼の心の中なんて。
見えない心なんて──。

トンネルをいくつ抜けただろう。上田駅を過ぎた頃、山頂に雪が残る北アルプスが、美しい姿を覗かせた。

雅人はここへ来た時、どんな気持ちでこの景色を見ただろうか。冬真っ只中の、雪に覆われたこの山々を。












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