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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
「早いだろ、もう着いたよ、今鍵を開けるね」

2階建てアパートの1階部分、4つ並んだドアの、一番左端の部屋だった。

「どうぞ。中でゆっくりしてて。俺、6時には帰るから」

「ありがとう。お仕事がんばってね。スーパーも近いみたいだし、夕飯作って待ってるね」

「ありがとう。……今日は、帰ったら透子がいるんだな……」

「そうよ」

しみじみと言う彼に、わざと明るく振る舞った。

「うん。じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

車に乗った夫に小さく手を振ると、満面の笑みで片手を上げ、ハンドルを切り返して通りに出て行った。

胸が熱くなった。






三合炊きの炊飯器がご飯を炊き上げる。
ほうれん草のおひたしを冷蔵庫で冷やし、筑前煮を温めるだけにして、後は雅人の帰りを待つだけになった。
好物の塩さばは、彼が帰宅してから焼く事にする。

二畳足らずのキッチンには、小さな冷蔵庫と電子レンジ。ままごとみたいに小さな土鍋。
下がり棚に並んだ茶碗や皿は、一人分しかなくて、私は食材を買うついでに、ステンレスの鍋と、食器もいくつか買い足した。

部屋はフローリングの一部屋だけ。
隅に畳まれたマットレスと蒲団。備え付けだと言っていたエアコン。ホットカーペットの上に置かれた低い木目のテーブル、小さなテレビ。

これが夫の部屋。

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