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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
男の独り暮らしとはこんなにも殺風景なのかと、壁に掛かった作業服を眺めて寂しく感じる。

風邪をひいたりしなかっただろうか。風呂は、シャワーで済ませているんじゃないだろうか。

広めのクローゼットを開けると、透明の収納ボックスがあり、タオルや、肌着、靴下がきちんと整理されていた。

掛けられている上着類の中に、雅人のお気に入りだったグレーのコートを見つけた。
ハンガーから外して顔を埋めると、また、あの日の彼を思い出した。

どうしてこんな事になってしまったのか……。

部屋を見渡すと、一人で真面目に家事をこなす雅人の姿が侘しく浮かび上がってくる。

背の高い彼が、腰を屈めてご飯をよそい、また、一人黙々と茶碗を洗う。洗濯物をたたみ、ぼんやりとテレビを眺め、寝る前にはこの天井を見つめて……。

チャイムが鳴った。

「はーい」

慌ててコートをしまい、ドアを開けた。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「入ってもいい?」

照れて頭をかく夫。

「やだ、雅人の家じゃないの」

「そ、そうだよね、ははっ」

靴を脱ぎ、「いい匂いがする」と言って手を洗いに行く。私はさばを火にかけ、味噌汁を作って筑前煮を温める。

「運ぶの手伝って」

「はいはい、あ、ごめん、食器足りなかったよね、ありがとう」

真面目に手伝う雅人。

「そうよ、私の分がなかったわよ、ふふっ。あ、冷蔵庫におひたしと缶ビールがあるの」

「今日は贅沢だなぁ」

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