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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
ふと、あの美しい妻を思った。
──あなたなんか、恋をした事もない子供の癖に!
彼女は、雅人を本気で愛したのだろうか。
きっと、恋をしていたのだろう。あんな形でしか、雅人を愛せなかった……。
気持ちが、悪夢のあの日に戻ってしまいそうだ。
「あの」
紗江が遠慮がちに口を開いた。
「はい」
「こんな事を言うのはなんですけど、次にいつあなたとお会いできるかわからないので……」
「なんでしょう」
紗江との会話が、私を引き留めていた。
「……浩之さんは、あなたをとても愛してらっしゃいました。私には、あなたもそのように見えましたけど……」
唐突な言葉は、でも、決して失礼だとは感じなかった。
私は、彼女に真摯に向き合うべきだと思った。
「いいえ、松岡様が誰かを愛していたとしたら……、いえ、私を通して、他の方を想っていたのだと思います。……でも、もう何もかも終わりましたので」
「それは、亡くなられた奥様の事を言ってらっしゃるんですね。……それは違います。あぁ、もう済んだ事なんですね。……でも、たとえあなたの仰る通りだったとしても、水沢さん……、私はあなたが羨ましい」
「え?」
「あの方に愛されて」
何も言葉は出ない。
閉じ込めていた惨めさが、怒りに変わりそうだった。
「いいんですか? 紗江さんはそれでも」
「ええ、あの方のお傍にいられるんですから……。それに、私、15年近くあの方を見てきましたけれど、そんなに器用な方じゃないと思います。あなたへの気持ち、本気だった筈ですよ」
──あなたなんか、恋をした事もない子供の癖に!
彼女は、雅人を本気で愛したのだろうか。
きっと、恋をしていたのだろう。あんな形でしか、雅人を愛せなかった……。
気持ちが、悪夢のあの日に戻ってしまいそうだ。
「あの」
紗江が遠慮がちに口を開いた。
「はい」
「こんな事を言うのはなんですけど、次にいつあなたとお会いできるかわからないので……」
「なんでしょう」
紗江との会話が、私を引き留めていた。
「……浩之さんは、あなたをとても愛してらっしゃいました。私には、あなたもそのように見えましたけど……」
唐突な言葉は、でも、決して失礼だとは感じなかった。
私は、彼女に真摯に向き合うべきだと思った。
「いいえ、松岡様が誰かを愛していたとしたら……、いえ、私を通して、他の方を想っていたのだと思います。……でも、もう何もかも終わりましたので」
「それは、亡くなられた奥様の事を言ってらっしゃるんですね。……それは違います。あぁ、もう済んだ事なんですね。……でも、たとえあなたの仰る通りだったとしても、水沢さん……、私はあなたが羨ましい」
「え?」
「あの方に愛されて」
何も言葉は出ない。
閉じ込めていた惨めさが、怒りに変わりそうだった。
「いいんですか? 紗江さんはそれでも」
「ええ、あの方のお傍にいられるんですから……。それに、私、15年近くあの方を見てきましたけれど、そんなに器用な方じゃないと思います。あなたへの気持ち、本気だった筈ですよ」