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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
「……本当に、そうでしょうか」

「ええ、本当です。私と似ていますからね、あの方。ふふっ、そういうところに惚れました」

──もし君がこうしてか傍に来てくれなくても、私の気持ちは変わらない…………切なく君を想うのみさ

胸に残っていた棘が、抜けた落ちた気がした。
溢れ出した涙を、紗江がティッシュで拭う。

「黙っておきますよ、その涙の事。ええ、あの方には黙っておきます。そうでないと、いつまでも私の出番がないですからね、ふふっ」

「もう、終わったことですから」

削り捨てたたくさんの言葉が、熱く蘇ってきて私を包む。

「あなたが選んでくださったこのイヤリング。私、ずっと着けていようと決めているんです」

「え?」

「だってあの方、毎日通ってくださるかも知れないでしょ、あなたを思い出す為に」

「紗江さん」

──そんな悲しい愛し方を続けるんですか?

言いそうになって口をつぐんだ。

この人の料理を、カウンター越しに楽しむあの人が目に浮かぶ。
きっとそんな風になっていくだろう。
紗江となら、いつまでも……。

「胸の奥の奥に納めて、先に進んでくださいね。私もいくつかの恋を、そうやって忘れてきました」

私は心でそれを聞き、頷いた。
そして、振り向かない事を誓った。

──君が幸せならそれでいい

それが彼の本心。

私は愛されていた、幸せだった。
これからも、幸せを築きながら進む。

泣きはらした私に、紗江が笑顔を向け、私も鼻をすすりながら笑った。










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