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歪んだ鏡が割れる時
第7章 最終章
忘れていた。
いつの間にか足枷は外され、その置き場所を気にする事もなくなっていた。

私は、学生の頃に買ったまま、一度も履く事のなかったハイヒールの箱を開け、アンクレット靴の中に忍ばせた。そして、クローゼットの一番奥に押し込んだ。





午後の休憩で、美波が席を外している時に白石に呼ばれ、私はカタログ整理の手を止めた。

「長野にうちの支店があるって知ってるかしら?」

「あ、はい」

「ご主人の単身赴任が長くなりそうなら、いつでも相談して頂戴」

「店長……」

思いがけない提案だった。

「あなたなら、どこでも活躍できるわ。私にとっては少々痛手ではあるけど」

「気を使って頂いて、……ありがとうございます」

「今は育児休暇だって取りやすいし、そろそろそういう事も考えてみた方がいいわよ」
 
「……子供、ですか」

雅人と私の? 
実感がなかった。それどころではない状況が続いていた。

「まあ、落ち着いてからの話でしょうけど。でも、大切なことよ」

「そうですね、考えてみます」

雅人はどう思うだろうか。
子供が欲しいと思ってくれるだろうか。

美波が控室から出てきた。

「ごちそうさまでした。皮がしっとりしててすっごく美味しかったです」

「良かったわ、喜んでもらえて」

「あ、そういえば昨日、あのお客様が来ましたよ。透子さん覚えてますよね」

「誰かしら」

美波がうふふっ、と肩をすくめた。
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