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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
「いらっしゃいませ、松岡様」

先程のバーテンダーが、銀のトレーに形の異なるグラスを乗せてきた。

「こちらはシャンパンでごさいます。松岡様はいつものこちらを」

黄金の輝きと、琥珀色の落ち着いた光が、木目調のテーブルに美しい影を映した。

「ありがとう。君、例のものは」

「はい、すぐに」

彼の後ろにいたウェイターが、一歩前に進んだ。

「水沢透子様、お誕生日おめでとうございます」

「え…」

イチゴがのった可愛らしいホールケーキがテーブルに置かれた。

3本の赤いろうそくの火が僅かに揺れて、唖然とする私にまばたきをさせる。

「こちらは私どもから」

バーテンダーが、手のひらに乗せた小さな木箱をテーブルに置き、すぐに蓋を開いた。

オルゴールだった。

おかしなリズムの"ハッピーバースデー"が、3度目の演奏の途中で息耐えた。

「さあ、ろうそくの火を消して」

「は、はい」

思いがけないサプライズに固まっていた私は、慌てて息を整え、3つの炎を吹き消した。

「おめでとう」

「おめでとうございます」

小さな拍手がテーブルを囲む。

「ありがとうございます」

「さぁ、乾杯しよう」

「……はい」

スタッフが一礼して離れていき、私達はグラスを合わせた。

「いい夜になりそうだ」


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