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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
彼は、丸い氷が一つだけ入ったグラスを小気味良く鳴らしてウイスキーを味わう。

私はその視線を受け止め、手にしたグラスを傾けた。

名前、誕生日、ろうそくの数……。

おそらく白石は、私がこの誘いを断った場合を想定し、その理由を松岡に伝えておいたのだろう。だから私を急かさなかったのだ。

何もかもを丸く収めたがる、彼女らしいやり方だと思った。

それにしても、ブレスレットの加工はタイミングが良すぎた。ひと月前の注文で、出来上がったのは一昨日だったのだから。

「見てごらん、いい景色だろう。嫌な事なんか全部忘れてしまえそうだ」

「えぇ、ほんとに綺麗な夜景ですね。あの、松岡様にも嫌な事なんてあるんですか?」

「あはは、酷いな君は。まあいいさ、ほら、女性は甘い物が好きなんだろう?遠慮せずにどうぞ」

「はい、では、いただきます」

甘過ぎないクリームと、しっとりとした生地の食感に気持ちがほぐれていく。

「わぁおいしい。こんなに美味しいケーキは久しぶりです」

「やっと笑ったね」

彼は笑顔を浮かべ、チェイサーを口にした。

ケーキのせいで、口当たりの良いシャンパンがすすむ。

「あの、お車は」

アルコールを口にしている彼を見て、駐車場に停めた車が気になった。

「帰るつもりはないよ、部屋を取ってある」

「……」

「君も来るだろう?」

時間を尋ねるような口振りだった。


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