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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
「おはようございます」

「あ、水沢さん、おはようございます。丁度よかったわ、ちょっと……」

「はい」

白石に手招きされ、頭で台詞を復唱する。

──失礼のないように心掛けていましたので緊張しました。夕食をご一緒させて頂いた後、すぐに帰宅しました。

「たった今、松岡様からお電話を頂いたところなの」

「えっ」

肩を寄せてきた白石の、次の言葉を待った。

「あなたのお陰で楽しいコンサートだったって」

「本当ですか、良かった、ほっとしました。失礼のないように……」

「凄く感謝されたわ。それでね水沢さん、話はここからよ」

「は、はい」

彼はいったい……。

「松岡様のお知り合いに、近々婚約される方がいらっしゃるらしいの。どうやらうちを紹介してくださったらしくて、明日にでも訪ねて行く筈だからよろしくって」

「え……」

白石が満面の笑みで頷いた。

「あなた、コンサートが済んだ後、すぐに帰っちゃったの?ふふっ、食事ぐらい奢ってもらえばよかったのに。いかにも水沢さんらしいわ。きっと、あなたのそういう所を気に入ってくださったのね」

「……はぁ」

「とにかく、あなたにお願いしてよかったわ。ありがとう、お疲れ様」

「いえ、お役に立ててよかったです」

控室に入り、私はようやく肩の力を抜いた。松岡の手際の良さに、ほっと胸を撫で下ろした。


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