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歪んだ鏡が割れる時
第2章 第二章
「ユウちゃん、傘持っていかなかったの?」

「だって急に降りだすんだもん、あんなに晴れてたのに」

「梅雨明けした途端に降るんだな。ほら、こっち向いて」

俺はバスタオルをユウの頭に被せ、ごしごし拭いてやった。

「あはっ、ありがとう」

ポニーテールをほどいたユウは大人びて見える。

「寒くない?」

「うん、暑かったからちょうどいい」

化粧を落とすと一重になるからヤダと言うユウの顔は、眉を隠して切り揃えた前髪とつけまつげ、ツンと尖った鼻 、そして小さい唇でできている。

無邪気に笑うほっぺにキスをすると、笑顔は消え、恥ずかしそうに俯いた。

知り合って3ヶ月、ユウの初めてを奪ってしまった俺は、じつは田舎に彼女がいるという事を言い出せずにいる。

地元の大学を卒業したら、親のツテでこっちで就職するという茜は、まさか俺がパチンコ屋でバイトしてるなんて思ってもいない。

俺も25だ。ホントなら今頃、都会の企業戦士の端くれとしてバリバリ働いている筈だったのに。

なんでこうなった……。

新入社員いじめのあんな会社は辞めて正解だった。ノルマに追われ、時間に追われ、罵倒され、身体も心も疲弊していった。

体調を崩し、電車に乗るのさえ怖くなった俺は、追われるように仕事を辞め、派遣社員としてべつの会社に就職した。

バス通勤に変え、正社員以上に働いても、少し具合が悪くなると使い捨て同然に切られた。
どこも同じだった。

もう仕事を探すのも億劫だった。

気がつくと俺は、思い描いていた道から大きく外れていた。一度踏み外すと、悪い方にしか進まない。
その良い例がこの俺。


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