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歪んだ鏡が割れる時
第2章 第二章
女は1時間もしたら戻って来る筈だ。封筒を開けて血の気が引き、怯えながら夕食の支度をするんだろう。男に連絡するだろうか。

俺はコーラを飲み、硬いスルメを噛み締めながら頭を働かせる。

2駅先のみどり公園には、スーツ姿にメガネで乗り込もう。知らない男に頼まれて来たと告げて、あとは取引成立、もう用はない。
まずは借金をチャラにする。無駄使いはしない。これまでと変わらない生活を続ける。

茜がやって来たら、おしゃれにキメて会いに行く。豪華な食事でもてなすデート、タクシーを使えば完璧だ。

茜に会えば変われる。今の自堕落な生活から抜け出して、やる気とか生きがいとか、どこかに落としてきた物を見つけられるんじゃないか。前向きになって笑ってられる筈だ。

俺はこのままではダメだ、このままでは……。

ポテトチップを口に入れたユウが、指先をぺろりと舐めてティッシュで拭いた。グラスに残ったコーラを飲み干し、目覚まし時計を覗き込んだ。

「そろそろかな」

「まだ早いよユウちゃん、40分しか経ってない。セレブな主婦のお買い物は長いんだから」

「ちょっと見てみる」

窓辺に立つユウの足先がトントンと床を鳴らし、大切な人を待ちわびているように見える。

「あ……」

「何、まだだろ?」

返事がない。

「どうかした?」

ユウの横に立ち、視線の先を見た。

「早いな、もう戻って……えっ……」

駐車場にバックで入ろうとしていたのは、黒い車だった。



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