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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
「その通りよ。だから山崎さんも、お客様は大切にしてちょうだい」

「はい、もちろんです」

白石はシングルマザーだ。大学進学を控えている息子を、一人前にするのが彼女の夢だ。さらに、店長からエリア長になるという目標も持っていた。

一方美波は、同棲中の彼との結婚資金が必要だった。

「大丈夫ですよ透子さん。あの方、下心なんてないですよ」

「ちょっと山崎さん、失礼な言い方はやめなさい。松岡様に限ってそんな……」

「すみません店長。でもあの方、きっとどこかのお偉いさんですよ。あの高そうなスーツと身のこなし、どう見ても紳士だし心配なし。第一、奥様と行く予定だったのに、一人で行くなんてかわいそうじゃないですか」

二人の話が遠くに聞こえる。

不安が霧の様に胸に拡がっていった。
私はそれから逃げたくて、美波の話を遮った。

「そんな事言うなら、美波ちゃんがご一緒すればいいじゃない」

美波が目を丸くした。

「えーっ、どう考えても私じゃ無理ですよ。
なんだか気難しそうなオジサンじゃないですか。短く刈ったあの髪、似合ってるというか、ちょっと怖くないですか? さっきの笑った顔だって、私初めて見ましたよ。それに、だいたい私、クラシックなんて興味ないです、むりむり、きっとあくびばかりして怒られちゃう」


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