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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
違う、考え過ぎだ。

「お、おかしいよ雅人。どうしたの?」

「ごめん、つい、興奮し過ぎて……」

すまなそうにしている夫を見ると、やはり私のせいではないのだとほっとする。

仕事がうまくいってないのかも知れない。捌け口のないストレスが、彼を暴走させたのかも知れない。きっとそうだ。

それとも、何か勘づいているのだろうか。

自分のしでかした事が暗い影となり、夫を責める気持ちにはとてもなれない。

「透子、ごめん」

「いいの、大丈夫。……それより、今日はもうゆっくり寝た方がいいんじゃない?明日も仕事だし」

「……そうだね、そうする」

「ゆっくり寝てね、おやすみ」

「おやすみ」

ウェットティッシュに手を伸ばす夫を残し、部屋を出てバスルームに向かった。

触ると痛む外陰部は、シャワーのお湯さえ強く沁みた。柔らかいタオルでそっと押さえると、うっすらと血が滲んだ。

ちりちりと痛む身体にナプキンを当てて部屋に戻ると、夫は既に寝息を立てていた。

着信があったらしく、携帯電話が彼の枕元で点滅している。ベッドから落ちそうなそれを手に取り、サイドテーブルにそっと乗せた。

たとえ仕事の用事でも、くたびれた夫を起こしたくなかった。



眠れない夜だ。

寝返りを打つ度にそこが擦れて痛んだ。

背中を向けた夫が、次に私を欲しがるのはいつだろうか。その時私の身体は、彼を必要としてくれるだろうか。

ため息を付き、寝返りを打つ。

今夜はあの人を思い出さずにすむ。
この痛みがいつまでも続けばいい。
夜毎の哀しい一人遊びを、このまま忘れて眠りにつきたい。










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