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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
万年筆のように、置場所を忘れてしまえるのなら。
時々思い出し、そっと手に取って懐かしく見つめられるのならどんなに……。

「まぁ、松岡様、お待ちしていたんですよ、いらっしゃいませ」

白石の声に、心臓が動き始めた。

「やぁ、ちょっと忙しくてね。どうかな、私はここに、いくらか貢献出来ているかな?」

「えぇえぇ、お陰さまで。ぜひお礼を言わせて頂きたかったんです。いつも格別の御引き立てを賜り、誠にありがとうございます」

「ありがとうございました」

美波の明るい声がする。

「いや、なかなかの評判だよ。お陰で私も鼻が高い」

振り向けなかった。

「今日はまた、お美しいお連れ様とご一緒なんですね」

「うむ、彼女は私の一番のお気に入りでね。何か似合いの物をと思って連れて来たんだ」

片付けていた書類の束がレジ周辺に散らばった。

「あ~、透子さん、私それやります。それより松岡様お見えですよ、早くご挨拶を」

「ご、ごめんね、美波ちゃん」

逃げ出したかった。

笑顔を作るのがこんなにも辛い。
両手をへその位置に当て、ゆっくりと歩き、微笑み、白石の横に立った。

「いらっしゃいませ、松岡様」

目が合う前に深々と頭を下げ、隣の女性に視線を移した。

「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました」

和服が似合う、松岡と年齢も近そうな、落ち着いた人だった。




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