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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
「うむ、久しぶりだね。元気だったかな?」
何も変わらない温かな口調が胸に響いた。その瞳には、穏やかな色しか見えなかった。
「はい、お陰さまで」
「ちょっと彼女にプレゼントしたいんだけどね、遠慮ばかりして困ってるんだよ。似合いそうな物を選んでくれないかな」
「浩之さん、お高いものは私、必要ないんですよ」
困った様子で松岡を見上げたその人は、確かに今、浩之さんと呼んだ。
「まあいいから、この人に手伝ってもらって、記念に何か一つ持つといい」
「……はい」
僅かに赤みがさした頬を私に向け、「お願いします」と小さく微笑む。
高く結い上げた髪は面長な彼女に良く似合い、細い眉とさほど大きくはない目が、かえって大人の色気を感じさせる。
草木染の紬はやがて来る秋を匂わせ、同系色で濃い色合いの帯が、着物を上品に引き立てていた。
「では、こちらに指輪などございますので、ご案内させて……」
「あ、ちょっと待ってください」
松岡の胸に両手を当てて自分に向き合わせ、ネクタイに手を伸ばした。
「また歪んでますよ」
「あぁ、すまない」
彼女はネクタイを、彼は、彼女を見ていた。
見ないで……。
「あの、指輪より私、イヤリングがいいんです」
「あ、はい、かしこまりました。ピアスはなさらないんですね」
「えぇ、怖くって、ふふっ、今時変でしょう?」
何も変わらない温かな口調が胸に響いた。その瞳には、穏やかな色しか見えなかった。
「はい、お陰さまで」
「ちょっと彼女にプレゼントしたいんだけどね、遠慮ばかりして困ってるんだよ。似合いそうな物を選んでくれないかな」
「浩之さん、お高いものは私、必要ないんですよ」
困った様子で松岡を見上げたその人は、確かに今、浩之さんと呼んだ。
「まあいいから、この人に手伝ってもらって、記念に何か一つ持つといい」
「……はい」
僅かに赤みがさした頬を私に向け、「お願いします」と小さく微笑む。
高く結い上げた髪は面長な彼女に良く似合い、細い眉とさほど大きくはない目が、かえって大人の色気を感じさせる。
草木染の紬はやがて来る秋を匂わせ、同系色で濃い色合いの帯が、着物を上品に引き立てていた。
「では、こちらに指輪などございますので、ご案内させて……」
「あ、ちょっと待ってください」
松岡の胸に両手を当てて自分に向き合わせ、ネクタイに手を伸ばした。
「また歪んでますよ」
「あぁ、すまない」
彼女はネクタイを、彼は、彼女を見ていた。
見ないで……。
「あの、指輪より私、イヤリングがいいんです」
「あ、はい、かしこまりました。ピアスはなさらないんですね」
「えぇ、怖くって、ふふっ、今時変でしょう?」