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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
「まぁ……」

「ですからその、お別れの記念に、という事だと思います」

寂しげな表情からは、戻りたくないという気持ちが溢れていた。松岡の下から去って行きたくないのだと、私に訴えていた。

「松岡様も、お寂しくなりますね」

「そうだと嬉しいんですけど、ふふっ」

「これからお食事ですか?」

「それは、……全ておまかせしています、最後ですので」

目元に艶っぽさが増した。

最後の夜を、二人はどんな風に過ごすのだろう。松岡は、私に与えた悦びを、この人にも……。

はだけた襦袢の裾を捲って、熱い唇を押し付ける彼と、歓喜するこの女を思うと、鼓動が重苦しくなり胸が詰まる。

この場を去りたかった。

松岡と一緒に、白石と美波が近付いてきた。

「お連れ様にお似合いのものはあったかしら?……まぁ、よくお似合いですよ。これは一点物で、ご覧ください、他と比べても真珠の光沢が違うんです」

「でも私、こんな高価なものは……」

「紗江さん、いいんだよ今日は」

紗江という女の肩に松岡の手が置かれ、耳たぶのイヤリングに指が伸びた。

「うん、これにしよう、君にぴったりだ」

「でも……」

「少しは自分の為に贅沢しなさい、私からのせめてもの気持ちだよ」

「……ありがとうございます」

白石がレジに立ち、私が包装を受け持った。


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