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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
「透子……」

嫉妬の炎がごぉごぉと燃えさかっていた。

「どうして、なぜわざわざここに来たんですか。別に私でなくても、夜のお相手は他にいくらでも居るって、私を笑いに来たんですか?」

こんな事を言いたいんじゃない。

嫉妬が怒りに変わり、あちこちに飛び火していくのを止められない。

「早く紗江さんの所に行ってください。最後の夜を、素敵な思い出にして差し上げてください。あのホテルで今夜は紗江さんと、そして、明日からはまた、別の誰かと楽しめばいい」

なんて愚かな事を……。

「透子、なぜここに来たんだ」

身を焼き付くした女が叫ぶ。

「あなたこそ、なぜここへ来たんです!」

「君に会いたかった」

「……え?」

「それだけだ」

焼け焦げて灰になりそうだった私を、彼の言葉が抱き締めた。

「彼女は昔から通っているクラブのママで、私は信用の置ける得意先をいろいろと紹介してきた。そこの女の子達には、よくここでプレゼントを買ってあげていたんだが、紗江さんは誰からも何も受け取らないという主義だったから、最後ぐらいはと、無理を言って来てもらった。……君に会う口実がほしかった」

振り上げた拳を下ろせずにいた。

「紗江さんとは何もない。もちろん他の女性達とも」

「その名前を呼ばないで……」

なだめようとしている相手に食って掛かる、駄々っ子のようだった。


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