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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
彼の目の奥に熱がこもっているのがわかり、胸の奥がぽっと温かくなった。肩を寄せ、耳元に唇が近づいてくる。
「透子、君が飛び込んで来たんだ。もう手放すつもりはないよ、いいね」
熱い囁きと吐息が呪文のように全身に絡みつき、自信を得た鋭い視線が、私の承認を待っていた。
小刻みに震えてしまうのは、恐れではなく悦びのせいだった。呼吸は乱れ、身体は蕩けだしていた。
「どうした、返事は?」
「……はい」
「うむ、いい子だ」
私の知っている松岡だった。
これから過ごす幸せな時間が、一時の夢でもかまわない。秘密を重ね、そこに埋もれても、この人と過ごせるなら、どんな嘘でもつける。
誰かに嫉妬したことがあっただろうか。自分がこんなに醜いなんて。
恋をしていた。
説明出来ない、沸き立つ感情だけに突き動かされていた。
紗江の愛よりも深く、彼を愛していると思いたかった。
『悲愴』の旋律が聴こえてくる。耳から胸に重く渦巻いて、私を海底へと誘い込む。
深く深く落ちていく、止められない。
「私を愛してくれますか?」
「ずっとそうしてきたよ、君を見つけた瞬間から」
それはいつだったのか、思い出せなかった。
「……いつまでですか」
「死ぬまで」
大袈裟な台詞に耳を疑い、彼の横顔を見た。
「死ぬまで君を愛しぬくよ」
言葉とは裏腹の、穏やかで優しい表情だった。
「透子、君が飛び込んで来たんだ。もう手放すつもりはないよ、いいね」
熱い囁きと吐息が呪文のように全身に絡みつき、自信を得た鋭い視線が、私の承認を待っていた。
小刻みに震えてしまうのは、恐れではなく悦びのせいだった。呼吸は乱れ、身体は蕩けだしていた。
「どうした、返事は?」
「……はい」
「うむ、いい子だ」
私の知っている松岡だった。
これから過ごす幸せな時間が、一時の夢でもかまわない。秘密を重ね、そこに埋もれても、この人と過ごせるなら、どんな嘘でもつける。
誰かに嫉妬したことがあっただろうか。自分がこんなに醜いなんて。
恋をしていた。
説明出来ない、沸き立つ感情だけに突き動かされていた。
紗江の愛よりも深く、彼を愛していると思いたかった。
『悲愴』の旋律が聴こえてくる。耳から胸に重く渦巻いて、私を海底へと誘い込む。
深く深く落ちていく、止められない。
「私を愛してくれますか?」
「ずっとそうしてきたよ、君を見つけた瞬間から」
それはいつだったのか、思い出せなかった。
「……いつまでですか」
「死ぬまで」
大袈裟な台詞に耳を疑い、彼の横顔を見た。
「死ぬまで君を愛しぬくよ」
言葉とは裏腹の、穏やかで優しい表情だった。