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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
「はい、私だ。うむ、で、どうだった。……そうか、よしわかった。それは急いで知らせるべきだね。私から直接社長に報告しておくよ、例の場所に居るはずだ、……ん?あぁ、かまわないよ。君も鼻が高いね、はははっ。それじゃあ後はよろしく、ご苦労様」

それは、私の知らない彼の横顔だった。

「透子、すまない、急な用事が入ってしまった」

「お仕事ですか」

「うむ。明日は必ず会えるようにするから」

「はい。明日でなくても構いません、お仕事の邪魔をするつもりはありませんから」

「いや、明日だ。会いたいからね、私は」

その言葉が嬉しくて、残念な別れも明るい気持ちに取って代わる。

駅近くで降ろしてもらい、短いクラクションを残して走り去る松岡を見送った。

残された私は、普段使う事のない駅のホームに立ち、まだ覚めやらぬ気持ちの高ぶりを味わっていた。

彼の素振りや話し方、笑顔、仕事の顔、その一つ一つを好きになっていく。
ホームから見える街の灯がいつにも増してきらびやかで、心が弾む。
疲れた顔のOLや、座席で眠り込むサラリーマンの姿を眺めながら、私は胸を張って立っていた。

明日が待ち遠しかった。
約束のあることが嬉しかった。

最寄り駅で降りた私は、自宅途中のスーパーで赤ワインを買った。ステーキ用の肉を2枚と、出来合いのポテトサラダ、それからコンソメスープの具材を選び、自宅へと向かった。

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