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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
我が家に近づくにつれ、気持ちが切り替わっていく。
今夜は雅人が帰って来るのを待って、一緒に食事をとろう。仕事に追われてストレスを抱えているなら、少しでも癒しを感じてほしい。

後ろめたさは拭えない。
せめて彼の大好物で、もてなしたかった。

午後8時40分になろうとしていた。いつもより少し遅くなった。雅人はまた深夜の帰宅だろうか。せめて日が変わる前に帰ってきてほしい。

自宅マンションを前にして、夫にメールを打とうと思い付いた時、短い着信音が鳴った。

──久しぶりに早く帰ったよ
今どこ?
まだ仕事?電車?
駅まで迎えに行こうか?

「っ……」

なぜこんなに早く……。
私は我が家のベランダを見上げ、急いでエントランスの扉を押した。


いつもより3時間以上早い。
松岡の都合が悪くならなければ、いったいどんな言い訳ができただろう。背筋が凍った。そして、松岡の電話の相手に心から感謝した。

深呼吸を繰り返し、気持ちを静めてエレベーターを降りる。

「ただいまー。雅人、早かったんだね、今メール見たわ」

荷物を下ろし、靴を脱いだところに、夫が笑顔で現れた。

「あぁおかえり。珍しいだろ?思ったよりすんなり契約が取れたんだ。ま、楽勝楽勝」

「そう、じゃあステーキにして大正解だったわ」

「おお、よかったぁ、食べてこなくて。あれ?」

「なあに?」

「透子、それ職場の制服だろ、そのまま帰って来たの?」

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